現代のビジネス環境では、単に優れた商品やサービスを提供するだけでなく、認知・共感を生み出すためのブランド戦略が、企業の成長に大きな影響を与えます。今回は、ブランディングが重要な理由と、デザインやブランドを継続的に運用する上で欠かせない視点について解説します。
ブランディングが重要視される背景
現代では、ブランディングの重要性は急速に増加しています。その背景には、テクノロジーの進化に伴う社会構造の変化や、時代ごとに移り変わる消費者ニーズの存在があります。
たとえば、1980年頃までは物不足の過程にあった時代であり、消費者にとっては価格の安さや機能性といった実用的な価値が重視されていました。しかし2000年頃になると、技術や生産力の進歩により、高品質な製品が手頃な価格で手に入るようになり、消費者の関心は「スペック重視」から「デザイン重視」へとシフトしていきます。

2020年以降の現代においては、SNSやデジタルメディア、そしてAIの進展により、情報へのアクセスが圧倒的に容易になり、顧客の選択肢が多岐にわたり増加した結果、消費者は単にサービスの品質や機能といった側面だけでなく、コンセプトや存在意義といった「情緒的価値」に重きを置くようになりました。
このように、消費者の関心は、より内面的な部分へとシフトし、ブランディングの役割は拡大しています。また、企業にとっては、こうした変化を踏まえ、各ステークホルダーに対して「どのような文脈で、どのように伝えるべきか」というブランドコミュニケーションの設計は、もはや無視できない重要な視点となっています。
ブランドコアの概念を知る
ブランドコミュニケーションにおける文脈を考える上で重要となるのが、ブランドの根幹にある思想や価値観です。そこには必ず、譲れない信念や世界観、原体験といった“核”があり、私たちはこれを「ブランドコア」と呼んでいます。
ブランドコアとは、ブランド戦略における最上位の概念であり、ブランドの存在意義や行動指針の拠りどころとなるものです。たとえば、「この会社は何のために存在しているのか」「誰のために価値を提供するのか」といった問いに対する明確な軸がなければ、組織が有機的に動くことも、消費者の共感や購買意欲を高めることも難しいでしょう。

ブランドコアを定めるには、設立者の声、顧客の声、社員の声など、さまざまな視点から多くの情報を集めることが大切です。無理に新しくつくり出すのではなく、ブランドの根底にあるものを“見つける”という姿勢が重要です。まずは「絶対に変えてはいけないことは何か?」という問いから始めてみるとよいかもしれません。
ブランドアイデンティティの言語化
ブランドアイデンティティとは、前述の「ブランドコア」から派生し、それを外部および内部に向けてどのように伝えるかという“ブランドの文脈”を体系的に言語化したものです。
ブランドアイデンティティを明確化することで、社員が企業やブランドの魅力を言葉として把握できるようになったり、顧客に対してブランドの魅力を正しく伝えることが可能になります。

ブランドアイデンティティを可視化する有効なフレームワークのひとつに、「ブランド・アイデンティティ・プリズム」があります。このモデルは、ブランドが持つ6つの主要な要素を外的/内的、企業視点/顧客視点という2軸のマトリクスで整理しています。
Physique(物理的特徴):
ロゴ、書体、配色、商品、パッケージなど、ブランドを視覚的・物理的な特徴。
Personality(パーソナリティ):
語り口(トーン&マナー)、コミュニケーションスタイルなどに現れる、人格的な特徴。
Culture(カルチャー):
企業の歴史や伝統、価値観、社風、受け継がれてきた考え方などの文化的背景。
Relationship(顧客との関係性):
顧客とブランドがどのような関係性を築いているのか、共通する目的、価値観。
Reflection(代表的な顧客像):
ブランドの典型的な顧客像。性別、年齢、ライフスタイル、価値観など。
Self-image(セルフイメージ):
顧客がブランドを通じて得たい自己像。企業についてどのようなイメージや期待をするか。
コミュニケーションツールへ反映する
言語化されたブランドアイデンティティは、それだけでは意味を持ちません。それを視覚的表現や体験価値として可視化し、ユーザーとのあらゆる接点に一貫して落とし込むことではじめて、ブランドとしての信頼や共感が生まれます。
なかでもWebサイトは、ブランドとユーザーをつなぐ主要なタッチポイントの一つです。ロゴや配色、タイポグラフィといった視覚要素に加え、ナビゲーションの構造、動線設計、コンテンツの語り口など、あらゆるディテールがブランドの個性や姿勢を映し出すコミュニケーションツールとなります。
また、それらのデザインは、「流行り」や「見た目のそれっぽさ」で表面的に整えることが目的ではなく、ブランドが持つ文脈を正しく、魅力的に伝えるためのコミュニケーションの設計であり、それこそが我々デザイナーが担う本質的な役割だと考えています。
最後に
ここまで、独自の理論を踏まえ、ブランディングの重要性について説明してきました。とはいえ、いまだに「デザイン」や「ブランド」を経営資源として活用できていない企業は少なくありません。
その背景には、「自社にブランディングは必要ない」と考えているケースが多く、こうした“必要性への無自覚”こそが、多くの企業に共通する根深い課題だと感じています。
弊社では、デザインを経営資産として機能させるために、本記事で紹介したようなブランドコアの開発・再定義からプロジェクトを始めます。その上で、ブランドが本来持つ文脈や意図を正しく反映できる“意味のあるデザイン“を提案することを大切にしています。もし、弊社にご興味をお持ちいただけましたら、ぜひお気軽にご相談ください。